前回副業による節税効果について書きました。
基本的に副業は個人事業主としてやる人が多いと思いますが、
自分一人が社員であるマイクロ法人が節税効果が高いと聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。
マイクロ法人のメリット・デメリットを解説しつつ、個人事業のみの場合とマイクロ法人+個人事業とした場合の比較をしていきたいと思います。
結論
個人事業のみの場合とマイクロ法人+個人事業の場合は、年収が500万円の場合は手取り額で20万円ほどの差が生まれる。
ただし、マイクロ法人にした場合は税理士へ依頼するなど、追加で経費がかかる場合もあり、そこまで大きな節税効果は生まれないので無理に法人化する必要はない。
また、節税効果が最も高いのは、サラリーマンとして最低限の給与収入を得つつ、残りを個人事業主として稼ぐスタイルである。
マイクロ法人のメリットとデメリット
シミュレーションに移る前にマイクロ法人のメリットとデメリットについて整理します。
今回整理するのは、節約や節税につながる点のみのため、社会的信用等の観点は無視します。
メリット
マイクロ法人のメリットは、社会保険料を最小化できることです。
社会保険料は大きく2つあり、健康保険と厚生年金です。
どちらも所得が増えると負担が増えるようになっており、年収が伸びても手取りが伸びない大きな要因となっています。
年収の約20%は社会保険料として支払っています。
また、健康保険と厚生年金のどちらも払う額が増えても、それに対応するメリットが大きくないことが特徴です。
具体的には、健康保険は毎月10万円払っている人も、毎月1万円しか払っていない人も内容は変わりません。
どちらの場合でも病院に行った際の自己負担額が3割になるという内容で、毎月10万円払っていてもそれが2割負担になるというようなメリットはありません。
すなわち、個人のメリットだけを考えると、健康保険料は極力安く抑えるに越したことはないということです。
(もちろん社会的な相互扶助という観点からは大きく負担する意義はあります。)
また、厚生年金については負担額が増えると、将来もらえる年金額が増えます。
つまり、個人のメリットだけを考えても大きく負担するメリットがあるように思えます。
しかし、きちんと計算してみると厚生年金の年利は非常に低く、人によっては年利がマイナスということもあります。
(厚生年金の年利は、負担している額や将来何歳まで生きるかによって変わります)
年利がマイナスということは、それは払い損になっているということであり、厚生年金保険料として払わずに、自分で貯金ないし投資をするほうが良いということになります。
以上から、社会保険料を最小化することは大きなメリットとなります。
デメリット
マイクロ法人のデメリットは、下記の2点です。
- 会社負担分の社会保険料も負担する必要があること
- 所得がマイナスであっても法人住民税の均等割7万円の負担が必ず発生すること
会社負担分の社会保険料も負担
通常のサラリーマンであれば、健康保険も厚生年金も労使折半で半額負担となっています。
厚生年金保険料は標準報酬月額(≒月収)の18.3%の負担です。しかし、労使折半により実際にサラリーマンが支払う厚生年金保険料は標準報酬月額(≒月収)の9.15%となっています。
(それでも十分大きいですが、、、)
健康保険料も同様に本来標準報酬月額の9.8%前後の負担であるところを半分の4.9%程度の負担となっています。
マイクロ法人の場合、雇い主も自分、雇われているのも自分となるため、厚生年金保険料であれば標準報酬月額(≒月収)の18.3%の全額を自分で支払う必要があります。
すなわち、社会保険料の負担が倍増するということです。
法人住民税の負担
マイクロ法人は法人であるので、法人税を支払う必要があります。
法人税は利益に対して課税されるため、課税される利益がなければ負担は0ですが、法人住民税は課税される利益がなくとも均等割分は負担する必要があります。
法人住民税の均等割は年間7万円となっています。
マイクロ法人は自分一人が社員であるため、自分の稼ぎから7万円を負担する必要があります。
シミュレーション
年収500万円のケースを考えてみます。下記の3つのケースで手取りがどのくらいになるかをシミュレーションします。
- 個人事業主として500万円を稼ぐ場合
- 70万円をマイクロ法人として、430万円を個人事業主として稼ぐ場合
- 250万円をサラリーマンとして、250万円を個人事業主として稼ぐ場合
個人事業主として500万円を稼ぐ場合
手取り額は399万円となります。
個人事業 | |
収入 | 5,000,000 |
給与所得控除 | 0 |
給与所得 | 5,000,000 |
青色申告特別控除 | 650,000 |
社会保険料 | 625,288 |
基礎控除 | 480,000 |
小規模企業共済等掛金控除 | 816,000 |
課税所得 | 2,428,712 |
所得税 | 145,371 |
住民税 | 242,871 |
法人税 | 0 |
手取り | 3,986,470 |
iDeCoを満額(月68,000円)拠出し、小規模企業共済には入っていないと仮定しています。
小規模企業共済は節税にはなりますが、年利はそこまでではなく、節税効果を含めて年利5%程度となります。
加入するのも悪くない選択肢ではありますが、長い期間運用するのであればS&P500に投資するのとさほど変わりないのと、引き出し等に制限がかかるので一旦除外しています。
70万円をマイクロ法人として、430万円を個人事業主として稼ぐ場合
最終的な手取りは約419万円となります。
合計 | マイクロ法人 | 個人事業 | |
収入 | 5,000,000 | 700,000 | 4,300,000 |
給与所得控除 | 550,000 | 0 | |
給与所得 | 150,000 | 4,300,000 | |
青色申告特別控除 | 0 | 650,000 | |
社会保険料 | 130,867×2 | 130,867×2 | 0 |
基礎控除 | 480,000 | ||
小規模企業共済等掛金控除 | 276,000 | ||
課税所得 | 2,894,000 | ||
所得税 | 191,900 | ||
住民税 | 289,400 | ||
法人税 | 70,000 | ||
手取り | 4,186,966 |
社会保険料はマイクロ法人の場合は会社負担分も実質自分で支払うため、×2としています。
iDeCoは満額ですが、個人事業主と違い月23,000円の拠出としています。
250万円をサラリーマンとして、250万円を個人事業主として稼ぐ場合
手取りは約426万円となります。
合計 | サラリーマン | 個人事業 | |
収入 | 5,000,000 | 2,500,000 | 2,500,000 |
給与所得控除 | 830,000 | 0 | |
給与所得 | 1,670,000 | 2,500,000 | |
青色申告特別控除 | 0 | 650,000 | |
社会保険料 | 351,750 | 351,750 | 0 |
基礎控除 | 480,000 | ||
小規模企業共済等掛金控除 | 276,000 | ||
課税所得 | 2,412,250 | ||
所得税 | 143,725 | ||
住民税 | 241,225 | ||
法人税 | 0 | ||
手取り | 4,263,300 |
iDeCoは満額の月23,000円拠出としています。
マイクロ法人ではなく雇われである想定なので、法人税の自己負担は0円で社会保険も労使折半となっています。
比較表
それぞれを簡単に比較したものが下記表になります。
個人事業のみ | マイクロ法人+ 個人事業 | サラリーマン+ 個人事業 | |
収入 | 500万 | 500万 | 500万 |
社会保険料 | 63万 | 26万 | 35万 |
支払う税金 | 39万 | 55万 | 39万 |
手取り | 399万 | 419万 | 426万 |
個人事業のみの場合は、社会保険料負担が大きくなっています。
これは個人事業のみの場合は、一つの事業で稼いでいるため大きい収入に対して社会保険料がかかっています。
一方で、マイクロ法人+個人事業やサラリーマン+個人事業の場合は給与所得と事業所得が別れており、給与所得のみが社会保険料を決める所得となるためです。
支払う税金については、法人住民税の負担分もあり、マイクロ法人+個人事業が高くなっています。
結果的に、個人事業のみの場合とマイクロ法人+個人事業を比較すると、手取り額では20万円ほどの違いが生じています。
一方で社会保険料も会社分も支払っており、サラリーマン+個人事業の場合と比較してそこまで安くなっていないことに加え、法人住民税も含めた税金負担が大きくなっており、
手取りとしてはサラリーマン+個人事業が最も大きくなっています。
まとめ
マイクロ法人による節税効果について見てきました。
年収500万円の場合はマイクロ法人を設立することで年間20万円ほど手取り収入を増やすことができます。
小さくはないですが、法人化することによる事務手続きの煩雑化し、税理士への依頼などで費用が増えることを考えると、そこまで大きなメリットではないかなと思います。
また、マイクロ法人を設立するためにはマイクロ法人としてやる事業と個人事業主としてやる事業の2つを持つ必要があります。
2つの事業を創るというのが難しい人は週2.5日程度はサラリーマンとして働き、残りを個人事業として稼ぐというスタイルもありだと個人的には思います。
最近の法改正で厚生年金への加入要件が緩和され、従業員501人以上の事業所で週20時間以上働く労働者は厚生年金の加入要件を満たすことになりました。
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